ヴァージニア日記

アメリカで過ごす中で、毎日感じたことを記します。

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指先が見えなくなるまで。

「この人と共に生きて行こう」と決意する理由は人それぞれなのだろう。私の場合はただ一つ。それは多くの人がそうであるように、「この人」と一緒にいたいから。明後日、「この人」に向かって手を振る日が来る。帰国の日が近づいて来た。

大学生の時、毎日のようにテニスコートで会っていた先輩と、その後ご飯を食べたりし、そして別れる。ご飯を食べ、そして先輩のお腹をぎゅっと抱き自転車の後ろにしがみつくように乗り、国立駅まで見送ってもらう。先輩に時間のある時は、先輩は入場券を買って一緒に入り、そして東中野駅まで見送ってくれた。東中野の古い細いホームの階段のところで、今度は三鷹行きの電車を一緒に待つ。電車が来た。先輩が電車に乗り、ドアが閉まり、先輩が見えなくなる最後の最後まで手を振った。一人ぽっちになり、階段を登る。
帰りが遅くなった時は、少しでも早くに家に到着しなくてはと、東中野のホームに先輩を残し、改札を出て、駅構外からホームが見える所に立つ。手を振る。大久保からやって来た電車がすごい勢いで二人を分け、そして停車する。先輩は電車に乗り、窓から手を振る。お互いに口をパクパクして話し、最後に「バイバイ、、」と口を動かし先輩は消えて行く。一人ぽっちになりとぼとぼ歩く。
先輩に時間の無い時は、私だけ改札から国立駅のホームに入り、そして駅の外で先輩を見下ろせる場所へ移動する。あ、いたいた。
手を振る。電車に乗った私は、ドアの部分に陣取り、そして集中力を高める。一瞬だけ、駅の壁が途切れて先輩が見える場所があるのだ。そこへ先輩は移動しているはず。ほんの一瞬。そして、その一瞬が来た時に何度も手を振る。そして私は空いている席を探し、電車に揺られて1人帰る。

結婚して、あぁ、もうあのバイバイをしなくていいんだ。と思った。そして、どこへ行っても一緒の場所へ帰り、いつでもそこにいれば会える場所を持つことは本当に幸せなことだと実感した。哲、お帰り。哲、ただいま。幸子、お帰り。幸子、ただいま。

結婚後、何度も哲は海外出張があり、長い場合は3週間も家に帰ってこないこともあった。でもなぜか、その時は今のようなこんな寂しさを感じなかった。不安も無かった。

結婚してもうすぐ20年になる。空気のような存在になっている人との別れは、新婚時代よりも辛いものなのだろうか。結婚して20年経ち、私達はお互いに依存するようになっているからなのかもしれない。
自分がいなくてこの人は大丈夫だろうか。
別れる辛さもあるが、哲のお世話をしてあげられない辛さが今はある。

私なりに家族3人を面倒みているんだ、と思った。自分がいない間、誰がこの3人を面倒みてくれるのだろう。
大人なんだから、自分がいなくても大丈夫だと言うことは十分分かっているのに、ずっと一緒にいて、何かをしていてあげたい気持ちがこみあげて来る。

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明後日、ここを少しだけ離れる。ぎりぎりまでそのことを考えないようにしていたが、そろそろ考えなくてはならなくなった。
雷が来た時に誰がこの子と一緒にいるんだろう。仕事から疲れて帰って来た哲はどうやってご飯を用意するんだろう。

ねぇ、もしクルミが帰国の間に逃げていなくなったらどうする?昨日、哲に聞かれた。
もちろん戻って来るに決まっているじゃない!
何が出来るわけでもないかもしれないけれど、戻って来る!絶対に!


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そう、何が出来るわけでもないけれど、自分がいないと駄目だと思える家族を持っているんだ。

結婚の理由はバイバイしたくないからだけでは無く、自分がいないとと駄目だと思える相手を持ち、自分が強くなれることなのかもしれない。

行って来ます。
すぐに帰って来るからね。


きっと明後日、先輩は税関に入る入口で、私が小さくなるまで大きく手を振って見送ってくれるんだろう。指先が見えなくなるまで。

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